上咽頭擦過療法
上咽頭擦過療法
上咽頭擦過療法(EAT:Epipharyngeal Abrasive Therapy)はBスポット療法とも呼ばれ、上咽頭(鼻の奥でのどの一番上の部分、鼻とのどの間の部位)の炎症部位に塩化亜鉛溶液を直接塗布する治療です。
慢性上咽頭炎は、上咽頭に慢性的に炎症が起きている状態です。
原因:上咽頭は、鼻腔の一番後方、のどの一番上の部位に位置します。上咽頭は、鼻から吸い込んだ空気がのどへ流れていく空気の通り道であり、また繊毛上皮と呼ばれる毛の生えた細胞で構成されているため空気中のホコリや細菌、ウイルスなどの異物が付着しやすくなっています。一方で、上咽頭には、リンパ組織が集まっており、外部から侵入してくる細菌やウイルスから体を守るための免疫機関として重要な役割を担っています。このような理由から上咽頭では炎症が起きやすい部位になっています。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症を医療機関で検査する際に鼻の奥に綿棒を入れる理由は、上咽頭に付着しているウイルスを採取しているからです。また、上咽頭は健康な方でも軽い炎症を認め、生理的炎症部位といわれることがあります。
急性上咽頭炎では、細菌やウイルスが上咽頭に感染して炎症を起こしながらも、体の免疫機能や治療によってすみやかに改善します。しかし、細菌やウイルスがなくなった後も上咽頭に炎症やうっ血が残ってしまうと慢性上咽頭炎となります。細菌やウイルス感染以外にも、アレルギー性鼻炎や喫煙、乾燥した空気、胃酸の逆流なども慢性上咽頭炎の原因となると考えられています。タバコの煙や乾燥した空気、胃酸が粘膜を傷めて上咽頭炎を起こしてしまうからです。
症状:のど痛みや違和感、痰からみ、鼻がのどに降りる(後鼻漏)、長引く咳、声が出しにくいなどといった症状がみられます。炎症によって自律神経にも影響して、頭痛、肩こり、倦怠感などの様々な症状を引き起こします。また、慢性的な上咽頭の炎症が続くと、免疫反応の活性化が続いてしまい、炎症性物質が放出され続けます。すると、上咽頭が病巣炎症となり、離れた臓器の腎臓・関節・皮膚などに炎症を起こして二次疾患を起こすこともあります(IgA腎症、ネフローゼ症候群、関節炎、胸肋鎖骨過形成症、掌蹠嚢疱症、乾癬、慢性湿疹、アトピー性皮膚炎など)。
検査:内視鏡を使って上咽頭の状態を確認します。
治療:原因に応じて上咽頭擦過療法(EAT、Bスポット療法)、薬物療法(抗炎症薬、去痰薬、点鼻薬、抗菌薬など)、ネブライザー療法、鼻うがいを組み合わせて行います。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後遺症である嗅覚障害や慢性疲労にも効果が期待されています。
塩化亜鉛溶液を染み込ませた綿棒を鼻や口から直接上咽頭に擦り付けます。鼻と口からのどちらでも擦過すること可能ですが、口からの処置では吐き気や反射が起こる方も多いため、当院では内視鏡を使い上咽頭を観察しながら鼻からの擦過療法を行っています。ご希望の方には口からも施行しますのでご相談ください。
症状の重症度や罹病期間などで異なりますが、週に1~2回のペースで計10~15回程度を目安に治療を行っています。その時点で治療の効果がみられている場合は治療を継続します。治療効果がみられていない場合は無理に継続することはお勧めしていません。どの程度症状が改善するかは個人差が大きいため、上咽頭擦過療法(EAT、Bスポット療法)を行っても全く治療効果の実感できないこともあります。治療によって症状が落ち着いている方は徐々に通院間隔を伸ばしていくことを検討します。
治療のあとに痛みがあらわれます。特に上咽頭の炎症が強いほど痛みを強く感じます。治療後数分~数時間程度、もしくは翌日まで痛みが残ることがありますが、次第に落ち着いてきます。治療を繰り返して上咽頭の炎症が改善すると、次第に治療時の痛みも軽減していきます。
治療後に一時的に鼻水や後鼻漏が増える、鼻水や痰に血が混ざる、頭痛を感じるなどの症状があらわれる場合もありますが、通常数時間~翌日にかけて改善します。
治療当日~翌日にかけて、症状が一過性に増悪することがあります。治療を継続することによって、このような現象は減り、症状は改善していくと考えられます。
IgA腎症、ネフローゼ症候群、関節炎、胸肋鎖骨過形成症、掌蹠嚢疱症、乾癬、慢性湿疹、アトピー性皮膚炎などの自己免疫が関与する病気は専門の先生の管理が必要です。これらの病気に対する上咽頭擦過療法(EAT、Bスポット療法)はあくまでも補助的な治療法と考えてください。